ベンゾジアゼピン受容体作動薬について Part1 基礎編

睡眠薬

皆さん、こんにちは。管理人のtoyosanです。今日は、不眠症に使われる睡眠薬の一つのベンゾジアゼピン系睡眠薬について解説します。ベンゾジアゼピン系睡眠薬は使い方を間違えなければ素晴らしい医薬品です。また、化学構造的に美しい構造活性相関を示す医薬品です。創薬化学の教科書にも掲載される医薬品です。しかし、適切に使用することが求められる医薬品でもあります。ベンゾジアゼピン系睡眠薬について詳しく解説をしたいと思います。

ベンゾジアゼピン受容体作動薬の分類

ベンゾジアゼピン系睡眠薬という名前をよく聞きませんか?
正しくは、ベンゾジアゼピン受容体に結合し、催眠作用を示す医薬品を指すので、ベンゾジアゼピン受容体作動薬(Benzodiazepine Receptor Agonist:BZRAs)と呼ばれます。BZRAsは化学構造に基づき、ベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZD)と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z-Drug)に分類されます。

ベンゾジアゼピンの名前のその骨格に由来します。そのベンゾジアゼピン骨格から化学的に等価な骨格を探索し創薬されたのが非ベンゾジアゼピン系睡眠薬です。日本で上市されている非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の一般名であるゾルピデム(Zolpidem:商品名 マイスリーなど)、ゾピクロン(Zopiclone:商品名 アモバン)、エスゾピクロン(s-Zopiclone:商品名 ルネスタ)の頭文字ZをとってZ-Drugと呼ばれます。

GABAA受容体

ベンゾジアゼピン受容体作動薬はGABAA受容体に結合し、催眠・鎮静作用を発揮します。GABA受容体は、GABA(γ-アミノ酪酸)を天然のリガンドとします。GABAA受容体は5量体であり、ひとつひとつをサブユニットと呼びます。このサブユニットを構成するアミノ酸から分類すると、α、β、γの3種類に分類できます。α、β、γはさらに分類することができ、α1-6、β1-4、γ1-4に分類できます。中枢に最も多く存在する組み合わせは、α1β2γ3、α2β3γ2、α3β3γ2とされています。昔は、ベンゾジアゼピン受容体1(BZ1)、ベンゾジアゼピン受容体2(BZ2)などと分類されていました。しかし、BZ受容体に親和性を示す薬物はBZRAs以外に多数存在し、不適切であるということから、ゾルピデムが発売された際に、BZ1, BZ2, BZ3をω1, ω2, ω3受容体に再定義されました。BZP受容体には高親和性のω1受容体、低親和性のω2、末梢型のω3受容体があります。ω1受容体は大脳皮質、脳幹、小脳に広く分布し、ω2受容体は、大脳辺縁系と脊髄に、ω3受容体は腎臓に発現しています。ω1受容体はα1を含んだGABAA受容体、ω2受容体はα2、α3、α5を含んだGABAAに対応すると考えられています。日本だけはなぜか、ω1, ω2, ω3という呼び方を論文などでみます。現在は、α、β、γという呼び方が一般的です。

ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、αサブユニットとγサブユニットの間のポケットに結合し、GABAの作用を増強することにより、催眠、鎮静、抗けいれん作用を示します。ベンゾジアゼピン受容体作動薬の薬理作用の違いは、結合するαサブユニットに起因します。

αサブユニットの機能は、次のように考えられています。α1は鎮静作用、抗けいれん作用に加え、依存・健忘を司ると考えられています。また、若干の催眠作用もあると考えられています。α2、α3は催眠作用に加え、抗不安、抗うつ作用や筋弛緩作用を示します。鎮静作用とは、言葉の通り「眠る」のではなく、「神経の昂ぶりを鎮める」事となります。従って、α1選択性が高いベンゾジアゼピン受容体作動薬は、「鎮静をかけながら、眠りへと導く」こととなり、依存が生じやすくなります。

では、ベンゾジアゼピン受容体作動薬は受容体選択性はあるのでしょうか?

その答えはYesです。

一般的に、トリアゾラム、ブロチゾラムなどのベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZD)のαサブユニット選択性は、α1>α2=α3=α5となります。ゾルピデムは、トリアゾラムなどのベンゾジアゼピン系睡眠薬をリードに、催眠作用強度を上げるコンセプトで開発されました。従って、受容体の選択性は、α1>>α2=α3=α5となり、従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬の中でα1選択性は最も高くなります。一方でゾピクロンは、α1=α5>α2=α3となります。さらに、光学異性体であるゾピクロンのs体のみを取り出したエスゾピクロンは、なぜかα2=α3>α1=α5となります。

同じベンゾジアゼピン受容体作動薬にカテゴライズされても、受容体選択性が異なることをご理解いただけたかと思います。ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、薬理学的に分類するとエスゾピクロンと残りという分類が妥当と考えられます。

ベンゾジアゼピン受容体作動薬とその立体構造

ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、どうしてαサブユニット選択性をしめすのでしょうか?その答えが医薬品の立体構造と考えられています。

トリアゾラムやブロチゾラム、フルニトラゼパムのようなベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZD)は、ゾルピデムのようなZ-drugの大部分は平面構造を示します。例外は、ゾピクロン及びエスゾピクロンで凹凸のある立体構造を取ります。BZRAはGABAA受容体のα及びγサブユニットの間のポケットに結合します。α1サブニットによって構成されるポケットは、左右に狭いですが上下に広い構造をしています。αサブユニットの構成アミノ酸に変異を入れる実験により証明されています。左右に狭いが上下に広い構造により、平面構造をとる大部分のBZRAsは結合しやすく、親和性は高くなります。一方、エスゾピクロンは凹凸の構造をしており、一定の構造でポケットにはまる結果、親和性が低くなると考えられています。現在は、BZRAsの立体構造に起因し、GABAA受容体のαサブユニットに対する選択性が異なると考えるのが良いかと思います。

BZRAsの構造活性相関

最後に、BZRAsの構造活性相関について書きたいと思います。日本薬学会のホームページからの引用ですが、基本骨格が同じ化合物群の生理活性(受容体や酵素への結合活性など)は、その基本骨格に結合している置換基により強弱が変化します。それらの置換基構造や物理化学的性質の違いと生理活性の強弱の間に認められる統計学的な関係性を定量的構造活性相関(QSAR:Quantitative Structure-Activity Relationship)と呼び、医薬品のデザインする際、QSAR式を用いた生理活性予測は有効な手段のされています。

平たく言えば、基本骨格が同じ(BZRAsの場合は、ベンゾジアゼピン骨格)に結合している置換基により強度が変わる事を指します。

BZDZDは、クロロジアゼポキシドが出発化合物となり、様々な置換基が導入され、多様な薬理活性をもつようになりました。例えば、化合物の安定性と作用強度を増強を目的としフッ素の導入を行ったフルニトラゼパム、クアゼパムがあります。その結果、フルニトラゼパムのように作用強度が高まります。次に脂溶性を高めることを目的にハロゲン族の導入を行った、トリアゾラム、ブロチゾラムなどがあります。こちらは使用性が高まり、脳内移行速度が上がった結果、すぐに催眠作用を発揮する短時間型BZRAsに分類されます。

さらに、水素結合を使い、GABAA受容体との結合能を高めることを目的にヘテロ環を導入した、エチゾラムやクロナゼパムなどがあります。こちらは置換基の導入は、抗不安作用を増強する方向へと進みました

イミダゾール環を基本骨格とするゾルピデムと同時期に開発されたalpidemではBZDとは少し構造活性相関は異なります。イミダゾール環を基本骨格とした場合は、メチル基を導入を行い脂溶性を高めると作用強度は増強します。一方の、alpidemは塩素を導入しながら脂溶性を高めた結果、抗不安作用が強くなりました。

エスゾピクロンも、BZDやゾルピデムの知識をふまえて考えると、塩素の導入により、脂溶性を高め脳内移行性が早まり、早く効果が発現するようになったと考えられます。さらに、ヘテロ環の導入により、抗不安作用も示すことが可能性があります。実際に、エスゾピクロンが抗不安作用を持つことは臨床でも報告されています。

この、化学構造がの違いに基づき薬理活性が異なるところがBZRAs全体の面白いところなります。

最後に、今回はBZRAsのベースとなる薬理作用とのその違いについて、化学構造をからめながら解説してきました。

ポイント

・BZRAsは、GABAA受容体のαサブユニットに結合し、GABAの活性を増強し、催眠・鎮静作用を示す

・αサブユニットは、α1、α2、α3、α5があり、α1は鎮静と依存を、α2、α3は催眠、筋弛緩作用を示す

・BZRAsは、薬理作用の観点から分類するとエスゾピクロンとその他のBZRAsと分類するのが良いと思われる。

・BZRAsの化学構造はに基づく構造活性相関を理解すると、作用機序の理解につながる

次回は、BZRAsのピットフォールについて書いていきたいと思います。

コメント

  1. […] 除く、すべてのベンゾジアゼピン受容体作動薬は同じサブユニットに結合します(https://toyonori.com/bzras-part1/)。従って併用は基本意味をなしません。意味をなさないばかりか、持ち越し効果 […]

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