みなさん、こんにちは。管理人のtoyosanです。今日はベンゾジアゼピン受容体作動薬のピットフォールについて書いてみたいと思います。
ピットフォールの中でも、代表的な持ち越し効果と前向性健忘・奇異反応について書いていきます。
持ち越し効果
持ち越し効果とは、睡眠薬の効果(鎮静、催眠、筋弛緩作用など)が翌日以降も持続し、日中に眠気、ふらつき、めまい、倦怠感を生じパフォーマンスが低下することを指します。
作用時間の長い睡眠薬の使用、高用量の内服、高齢者、肝、腎機能低下患者に多いとされています。ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、作用時間の長さによって超短時間型、短時間型、中間作用型、長時間作用型に分類されます。
入眠障害には、超短時間型、短時間型が、早朝覚醒や中途覚醒には、中間作用型、長時間作用型が一般的に用いられます。作用時間が長い睡眠薬ほど、日中の血中濃度が上昇し、翌日への持ち越し効果が生じやすいです。
理想的とされる睡眠薬のプロファイルですが、作用時間の速さを意味するTmax(最高血中濃度到達時間)は、1時間以内、作用持続時間を意味するt1/2(半減期)は、3時間以上(睡眠の維持)、7時間以下(持ち越し効果)とされています。
臨床上、よく遭遇するのが、入院患者さんから、「寝つきも悪いし、夜中に目が覚めてしまう」や「寝つきは良くなったが、夜中に目が覚めてしまう」という訴えを聞き、(超)短時間型睡眠薬に加え、中途覚醒や早朝覚醒対策に中間作用型や長時間睡眠薬を併用してしまうことです。その結果、持ち越し効果が出現し、ふらつきや転倒を生じてしまうということです。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬の併用は臨床上、正しいのでしょうか?
答えは、原則行いません。なぜかというと、エスゾピクロンを除く、すべてのベンゾジアゼピン受容体作動薬は同じサブユニットに結合します(https://toyonori.com/bzras-part1/)。従って併用は基本意味をなしません。意味をなさないばかりか、持ち越し効果などの出現を生み、患者さんにとってデメリットしか生みません。
入眠障害と中途覚醒を訴える場合は、まずは睡眠衛生指導を行うととともに、tmaxすなわち作用時間を考慮したBZRAsの選択をすることが必須となります。
ゾルピデムのピットフォール
ゾルピデムは、超短時間型睡眠薬に分類され、転倒が少なく高齢者に使いやすいと宣伝されてきました。転倒が少ないと宣伝されていた期間に、海外においてゾルピデムは持ち越し効果や転倒を引き起こすという論文が数多く発表されていたにもかかわらずです。ここに対して声をあげれなかったのは僕たち薬剤師の責任と思います。海外論文も目を通すべきと考えるようになったきっかけでもありました。
ゾルピデムは、若年層において男性と女性の血中濃度を比較すると、女性の方が血中濃度は上がりやすく、持ち越し効果があり、運転に注意というFDAの注意喚起がでました。
さらに、高齢者男性は若年者男性の2倍血中濃度はは上がり、高齢者の女性と若年者の男性を比較すると約3倍高くなります。これだけ血中濃度が上がれば、翌日の持ち越し効果は避けられないのが普通です。もととなる論文は2003年に発表されており、自分の勉強不足を悔いた事例でもあります。
ゾルピデムは短時間型に分類されるといっても、それは若年層の男性のみで、それ以外の方は中間作用型に分類されます。従って、一般的には持ち越し効果がある睡眠薬と考えるが妥当となります。
前向性健忘・奇異反応
前向性健忘とは、ある時点から以降の記憶が障害されることで、BZRAs服薬前の記憶は障害されないが、服用後ある一定期間または夜間に中途覚醒したときのことを記憶していないことをさします。用量を増やした時やアルコールとの併用した場合に認められることが多いです。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬基礎編(https://toyonori.com/bzras-part1/)でも書きましたが、α1サブユニットに選択性が高い睡眠薬ほど、また前向性健忘を引き起こしやすいとされています。
臨床的には、ゾルピデム、トリアゾラム内服患者さんに多く前向性健忘を経験します。個人的には、「食事を食べたことを忘れて、夜中に食べ散らかした後をみてびっくりする。」や「お菓子を食べたことを忘れて、空袋見てびっくりする」など食事関係が多いような気がします。
もう一つが奇異反応または逆説反応、脱抑制と呼ばれるものがあります。発生頻度は0.2~0.7%とされ、具体的な症状として、敵意・攻撃性、焦燥感、抑うつ状態、精神状態、そう状態、興奮などを生じ、暴力や自殺企図につながる事例も報告されています。
奇異反応の発症メカニズムですが、BZRAsの中枢神経系への作用により、脱抑制(理性が効かなくなる状態)を引き起こすとされています。中枢性のコリン作用、セロトニン神経系への作用、ドパミン神経系への作用、遺伝的要因の4つが仮説としてあげられていますが、今のところ詳細は分かっていません。
最も多く報告されているのが敵意・攻撃性、興奮です。ベンゾジアゼピン系抗不安薬に多く、クロロジアゼポキシド、ジアゼパムで報告されています。また、トリアゾラム、フルニトラゼパムでも報告されている。奇異反応か、本来に性格によるものなのかの判断は難しいが、奇異反応を疑った場合は、BZRAsの開始時期や増量時期との因果関係を確認するのが良いとされています。
奇異反応が起きたときは、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬であるフルマゼニルの投与が有効とされています。しかし半減期が約1時間と短く、再び奇異反応が起こるため注意が必要です。また、敵意・攻撃性、興奮に対してはハロペリドールが有効ともいわれています。フルマゼニルを使用する場合は、ベンゾジアゼピンの離脱反応が生じるリスクがあるため注意が必要となります。
予防するためには
睡眠薬を適正に使用することが重要となります。適正にに使用するとは、なかなか難しい命題です。しかし、ただ言えることは、眠れないからと言って、症状の鑑別や評価、適正な使用(非薬物療法からの開始など)を行わずに漫然とBZRAs投与することは、避けなければなりません。僕たち薬剤師が防波堤にならければいけないものだと感じています。
ポイント
・BZRAsのピットフォールには、持ち越し効果、前向性健忘、奇異反応があげられる
・持ち越し効果とは、睡眠薬の効果(鎮静、催眠、筋弛緩作用など)が翌日以降も持続し、日中に眠気、ふらつき、めまい、倦怠感を生じパフォーマンスが低下することである
・前向性健忘とは、BZRAs内服時点から以降の記憶が障害されることである
・奇異反応とは、逆説反応、脱抑制と呼ばれ、敵意・攻撃性、焦燥感、抑うつ状態、精神状態、そう状態、興奮などの症状をしめす
・理想的な睡眠薬のプロファイルは、作用時間の速さを意味するTmax(最高血中濃度到達時間)は、1時間以内、作用持続時間を意味するt1/2(半減期)は、3時間以上(睡眠の維持)、7時間以下(持ち越し効果)とされている
・ゾルピデムは、超短時間型睡眠薬ではなく、女性や高齢者にとっては中間型睡眠薬と同じ薬物動態学的プロファイルを示す
次回は、睡眠薬と転倒の関係について書いてみたいと思います。
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